アセチルコリン
アセチルコリンは最初に見つかった神経伝達物質です。
情報を受け取ることによって興奮した神経細胞のシナップス前膜からアセチルコリンが分泌されます。
アセチルコリンが次の細胞シナップス前膜にあるアセチルコリン受容体に結合することによって、ナトリウムチャンネルのサイズが変化し、ナトリウムイオンの流入を引き起こします。
ナトリウムイオンの流入によって細胞内外の電位が変化し(興奮状態になる)この細胞の前膜からあらたにアセチルコリンが分泌されます。
シナップス間隙は非常に小さく情報の伝達は一瞬に起こります。
ナトリウムチャンネルは5つのサブユニットからなるペンタマーです。
細胞外側から覗くと器のようなか形をしています。
アセチルコリン受容体はチャンネルの外部側面にあります。
ホモペンタマーですので5か所あります。
細胞内側に向かってチャンネルは狭まる形をしていて最も内側は正の電荷をしています。
それを打ち消すようにリン酸イオンが並んでいます。
ナトリウムイオンはこのリン酸イオンの負電荷をめがけて突入するのでしょうか?
アセチルコリン受容体はチャンネルの外側ほぼ中央にあります。
ホモペンタマーですのでチャンネルに五か所あることになります。
アセチルコリンが入ることによって、サブユニットβシート部分が少し回転してチャンネルの穴が拡大します。
このPDBの図では各受容体にアセチルコリンが二分子ずつ挿入されています。
アセチルコリン受容体の空間はかなり疎水性になっています。
ソフト上で調べてみましたが、鍵となるような水素結合は見当たりませんでした。
左ボタンを押してドラッグすると分子を動かすことができます。
(MolFeatプラグインが必要です。)
アセチルコリン受容体部位の空間は疎水結合を基本としていること、また、空間的にも余裕があるためか、リガンドにさほど特異性はない模様です。
プロテインデータバンクを調べていくといくつかの天然毒がアセチルコリン受容体に入った複合体が見つかりました。
2XYSはストリキニーネとの複合体です。
ストリキニーネはマチンという植物の生産するアルカロイドで、映画や推理小説にも登場するほど強い毒性を示します。
腕、脚、胴体の筋肉が強く収痙攣させる神経毒です。
ストリキニーネはアセチルコリン受容体と同じ場所に挿入されていますが、チャンネルの構造を変化させません。入るだけです。
ただし、アセチルコリンの入るスペースにフタをしてしまいますので、アセチルコリンが働くことができなくなってしまいます。(このような働きをアンタゴニスト活性といいます)
従って、神経伝達が遮断され体に異常をきたすという訳です。
ストリキニーネはとても苦く苦味健胃薬としても使われているそうです。
また強精強壮剤としてもも利用されているそうです。
左ボタンを押してドラッグすると分子を動かすことができます。
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2XYTは、d-ツボクラリンとの複合体です。
d-ツボクラリンは南米のツボクラーレという植物から単離されたアルカロイドです。
この植物は南米先住民に狩猟などで毒矢の原料と用いられたそうです。
ツボクラリンは少量でも体内に入ると筋肉などの痙攣を引き起こす神経毒です。
矢で射られた獲物は筋肉麻痺による窒息するため、効果は早いそうです。
ストリキニーネ同様アセチルコリン受容体でアセチルコリンのアンタゴニストとして働きます。
左ボタンを押してドラッグすると分子を動かすことができます。
(MolFeatプラグインが必要です。)
プロテインデータバンクにはさらに、gymnodimine A (貝毒)も登録されています。
gymnodimine Aは安本健先生によって1995年にニュージーランド産の毒化したカキから単離された神経毒です。
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ジムノミジンもアセチルコリン受容体上でアンタゴニストとして働きます。
ただし、X線で得られた構造ではむしろチャンネルのサイズが大きくなって見えます。
左ボタンを押してドラッグすると分子を動かすことができます。
(MolFeatプラグインが必要です。)
貝の毒化はエンテロバクター属の共生微生物が原因で、国内でもホタテガイ、ムラサキイガイ、アサリ、 マガキ、アカザラガイ、ヒオウギガイ等の食用となる二枚貝が毒化することがあり養殖産業では重要な問題になっています。
ホタテガイの毒化原因物質としてはサキシトキシンが有名です。サキシトキシンもナトリウムチャンネルを阻害して重篤な場合死亡事故を引き起こす神経毒です。
養殖のホタテガイは厳密にサキシトキシンのチェックをしていますので、スーパーに出回っているものは安心です。
毒化した場合、周辺のホタテガイは出荷停止になるそうです。
しばらくすると、毒が検出されなくなりまた出荷されるそうです。海水の温度が原因か、毒化する季節は決まっているそうです。
貝毒にはサキシトキシン以外にも、オカダ酸、テトロドトキシン、ブレベトキシン、ドウモイ酸などが知られています。
テトロドトキシンはフグ毒、ブレベトキシンは赤潮毒、ドウモイ酸は海藻ハナヤギの毒として有名です。
ベラドンナアルカロイドのアトロピン、スコポラミンもアセチルコリン受容体と結合する神経毒です。
花言葉「沈黙」が示すように、ベラドンナは致死性の中毒を引き起こします。
ベラドンナとはイタリア語で「貴婦人」を示すそうです。
ベラドンナエキスを点眼する瞳孔が開き、瞳が大きく映り美しく見えるからだそうです。
(逆にアセチルコリンエステラーゼ阻害剤のサリンでは瞳が収縮して視界が暗くなるそうです。)
アトロピン点眼薬は弱視の治療など実際に処方されています。
美しく見せたいと言ったら眼科医は処方してくれるのでしょうか?
瞳が開いてしまうので眩しいのでしょうね。
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