シクロヘキサンの配座

シクロヘキサンの代表的な配座はいす型配座(chair conformation)ふな型配座(boat conformation)です。






上の図を見て判る様に、いす型配座では、考慮すべき立体エネルギーは、メチレン同士のgauche反発のみです。
この反発をが各結合にあります。メチル基同士のsynperiplanar反発と同程度(1.0 kcal/mol)と仮定して、
が求められます。
ふな型配座では、synperiplanar反発が複数個所で見られます。
まず、水素原子同士のsynperiplanar反発が4箇所、メチレン基同士のsynperiplanar反発が2箇所、また、ふねの舳先の部分では、メチレン基同士のgauche反発が二箇所生じています。
メチレン基同士のsynperiplanar反発をメチル基のそれ(1.0 kcal/mol)を代用して、
 

という立体エネルギーが見積もられます。

以上の結果を基に、いす型配座とふね型配座の立体エネルギーの差を求めると、
となります。
 
実際の配座エネルギーは下の図のようになります。

グラフからは、ふね型配座(boat conf.)はいす型配座(chair conf.)より9.8 kcal/mol高いことが読み取れます。
先ほどのラフな計算でも結構良い値を示していることがわかります。
実際には、ふなの舳先部分の二つの水素間が2.09オングスロロームと非常に近くなっており、これら水素間のファンデルワールス反発を考慮しなければいけないでしょう。
また、メチレン鎖同士のgauche及びsynperiplanar反発をメチル基のそれで代用しましたが、これも、エネルギーの見積もりを不正確にしている要因の一つです。

なお、シクロヘキサンでは、ふね型配座より、ねじれふね型(twisted-boat conf.)であること、配座変換の遷移状態は半いす型配座(half-chair conf.)があることがわかります。

シクロヘキサンのいす型配座、ねじれふね型配座の配座間には7 kcal/mol近い差があります。ボルツマン分布式による300Kでの存在比は、120000対1で、ねじれふね型配座の性質がシクロヘキサンの物性に与える影響は極めて少ない事が解ります。いす型配座がシクロヘキセンの物性にほとんど寄与しないということもできます。