リモネン:
リモネンは代表的な環式モノテルペンです。D-体[(R)−体]には柑橘類独特のさわやかな香りを演出しますが、L-体[(S)-体]は松かさのようなにおいがします。
グルタミン酸:
グルタミン酸は日本人池田菊苗によって、昆布のうまみ成分として1908年に単離されました。「味の素」は純粋なL−グルタミン酸ナトリウムです。
L-体はいわゆる旨みを持ちますが、D-体には旨みがありません。苦味を感じるそうです。
サリドマイド:
鏡像体間の生物活性の差は、匂いや味といったものだけではありません。毒と薬ほどの差が出てしまう場合もあります。
サリドマイドは1960年ごろまで使われた睡眠薬でし(S)−体には睡眠作用がありますが、(R)-体には催奇性があります。
(S)-サリドマイドには、これによる眠りの質の良さのみではなく、他の睡眠薬で問題になる毒性が全くなく、薬屋さんで買える睡眠薬としてもてはやされたことがあります。
当時、(S)-体のみを化学合成する技術も無く、ラセミ体(鏡像体の混合物)として製造、販売されていました。即ち、催奇性のある (R)-サリドマイドを50%含む混合物として販売されていました。
「つわり」などで睡眠障害に苦しむ妊婦さんに多用され、(R)-サリドマイドのもつ催奇性により、四肢に異常をもつ子ども、いわゆるサリドマイド児が生まれるという、サリドマイド事件を引き起こしました。
5000人を超えるサリドマイド被害者が出ました。
この事件により、鏡像体の示す生理活性の重要性が認識されるようになり、現在ではほぼすべての医薬品は光学活性体として製造する、或いはラセミ体として使用する場合、両鏡像体の生理活性に鏡像体の生物活性について十分に検査されるようになりました。
サリドマイドの不斉炭素はカルボニルのα位であり、容易に異性化(この場合、ラセミ化)します。従って光学活性体として合成可能となった現在でも、サリドマイドは睡眠薬として利用されることはありません。
サリドマイドには他にも優れた薬効があり、ガンやハンセン病に効果があることから、病気で苦しむ患者にとっては「悪魔の薬」から「福音の薬」に変化、その使用が徐々に再開されています。
ただし、死亡などにより使用されなかったものは返却する、妊婦は使用できないなど徹底した管理がなされています。
ペリプラノンB:
ペリプラノンはワモンゴキブリのメスが代謝する性フェロモンです。きわめて微量のペリプラノンBによりオスのゴキブリは羽を揚げて興奮し、性行動を開始します。
一方合成されたその鏡像体であるent-ペリプラノンBではオスのゴキブリは興奮しません。