マススペクトルを利用したラベル化効率の最適化


 先に紹介したように、Lambertella sp. 1346はきわめて効率的に添加したラベル酢酸を、lambertellol類に取り込ませる。
NMRスペクトルからラベル化率を求めるときの問題点(高いラベル化率のとき)
  1.非ラベル位のシグナルが相対的に小さくなり、シグナル−ノイズ比の問題から、非ラベル位を内部標準にできない。
  2.連続してラベル酢酸が導入される確率が高くなり、2Jcc結合などからシグナルが非常に複雑になる。
  3.プロトンNMRスペクトル上でサテライトシグナルとの積分比が正確であるが、実際にはほかのシグナルとオーバーラップして正確に解析可能なシグナルは、限られたものになってしまう。
ということでマススペクトルから、取り込み率を求めることがより正確ではないかと考えた。
ラベル実験を行うとマススペクトルではisotopomer由来のシグナルが複数現れる。これまでの実験では、これらの重量平均から平均分子量を求め、平均取り込み率を求めていた。

マススペクトルのシグナルパターンから取り込み率を求めることができないかと考えた。
 まず、根拠となるNMRスペクトルからの取り込み率の算出を再チェックした。
もし、ラベル酢酸の取り込み時にクレブス回路が働いていたら、たとえば[2-13C]acetateが[1-13C]acetateに変化してしまうため、これ までの内部標準と考えていたシグナルは、内部標準として用いてはいけないことになるからである。
実験は、瀬戸治男先生が開発された"alternate labeling 法"を応用して行った。
まず完全に1:1の比で[2-13C]acetateと[1-13C]acetateとを混合した。
この確認は、プロトンNMRで行った。[2-13C]acetateのカップリングは大きく、[1-13C]acetateのカップリングは小さい。よく見ると、非ラベルの酢酸も見られる。


積分比から調整した混合ラベル酢酸はラベル比が完全に1:1であることを確認した。
このサンプルを添加して培養した。得られたlambertellol Bのスペクトルを下に示した。

このC8, C4, C6などについては以下のようにラベル化率を正確に見積もることができる。

 全て解析したところ、解析可能な全てのシグナルで中央のシングレットと両脇のダブレットとの比が7:3となり、13CNMRの精度の範囲内でラベルの位置でラベル化率が異ならないことを明らかにした。すなわち、この取り込み実験ではクレブス回路の寄与は無視できると判断した。
その結果、マススペクトルのシグナルパターンは平均取り込み率を基にした確立で以下のように予測できることになった。

この式をエクセルにプログラムすれば、取り込み率を入力してスペクトルを予測することができる。


このシミュレーションは、取り込み率が15%から85%においてきわめて精密に予測することができた。わずか2%の取り込み率の違いでもスペクトルパターンが明白に異なることが判明した。

残念ながら10%以下の取り込み率は小さな差を明白にすることはできない。

また、全培養の後に培養液を遠心分離操作によって確実に取り除かないとパターンが乱れた

GCMSと組み合わせることによって条件を最適化し48%という高取り込み率に成功した。

Table 2. Incorporation of labeled acetate

run

Labeled acetatea)

Potato extractsb)

sucrose

Cultivation time

Incorporation Rate

Special treatment.

1

Na [1-13C]acetate

40 g

4.0 g

48 hr

38 %

The hyphae were used without washing with water.

2

Na [1-13C]acetate

40 g

4.0 g

5 days

7%c)

Same as above.

3

Na [2-13C]acetate

40 g

4.0 g

5 days

7%c)

Same as above.

4

Na [1-13C]acetate

40 g

0 g

48 hr

38%

Same as above.

5

Na [1-13C]acetate

40 g

4.0 g

48 hr

42%

The solution of potato extracts was boiled at pH 2.0 in order to remove trace acetic acid in the extracts. The solution was neutralized before inoculation. 

6

Na [1-13C]acetate

4.0 g

4.0 g

24 hr

48%

The hyphae were washed with sterilized water before inoculation.

7

Na [1-13C]acetate

4.0 g

4.0 g

48 hr

42%

Same as above.

a) 20 mg of the labeled acetate was employed for each experiment. b) Commuted by the amount of the potato employed. c) incorporation levels were obtained based on 13C-NMR spectra.
























動がんばっても48%という取り込み率が最大であった。おそらくラベル酢酸は補酵素Aと結合しなければポリキチド生合成に取り込まれないが、解糖系から生成する酢酸ユニットはすでに補酵素と結合した形で代謝されることが取り込み率に制限を与えているのではないかと考えた。


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