メバスタチン(コンパクチン)、プラバスタチン、アルガトロバン



コレステロールの過剰は細胞膜を硬化させます。
血管細胞の硬化は高血圧の原因の大きな要因になります。

コレステロールの生合成経路の説明は生化学の教科書に頻出していますので省略しますが、その過程でhydroxymethylglutaryl-CoA reductase (HMG-CoA)の還元が重要なステップになります。
このときの還元剤はNADHです。酵素反応といえども、有機化学と同じように、ジヒドロピリジン環の水素原子がカルボニル炭素にヒドリドとして攻撃することによって反応は進行します。
反応によって、ジヒドロピリジン環部分はピリジン環(NAD)になります。CoAが結合することによって、混合酸無水物のようにカルボニル基は活性化されています。





この反応を触媒するタンパク質HMG還元酵素はNADHとHMG-CoAとを引き寄せて反応しやすいように整えます。




反応部分を拡大するとジヒドロピリジン環とHMG-CoAの位置関係がよくわかります。反応によって生じるアルコキシドイオンを捕まえるグルタミン酸残基も用意されています。






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遠藤章先生は6000株の菌類を調べ、1973年に青カビ(ペニシリウム・シトリヌム)の培養液からコレステロール合成阻害剤メバスタチン(コンパクチン)を発見しました。
1976年4−7月、メバスタチンが産卵鶏とイヌのコレステロールを劇的に下げることを証明し、その実用性が評価されました。
メバスタチン側鎖には4-ヒドロキシピロン環がありますが、これを開裂させると、HMGの構造そっくりになります。






HMG-CoA還元酵素はメバスタチンをHMG-CoAと勘違いをして取り込んでしまいます。しかしニセモノですから、そこで反応は進行しません。
活性部位にはメバスタチンが入ってしまっているので、本来の基質であるHMG-CoAは反応することができず、コレステロールの生合成はストップします。







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その後、有効性や毒性の改善など多くの誘導体が開発されました。
デカリン環部分に水酸基を持つのがぷらバスタチンです。これの側鎖ヒドロキシピロン環を水酸化ナトリウムで開裂させたのがプラバスタチンナトリウムです。
プラバスタチンの開発には遠藤先生も携わっておられます。この薬剤は、第一三共の主力抗菌剤です。

デカリン環部分の水酸基をメチル基に置換したものがメルク社が開発したロバスタチンです。






スタチンから、怪物医薬品が誕生しました。
アトルバスタチン(リピトール)です。
ファイザー社はスタチンの構造を分子モデリングで計算して、構造を単純化すると同時にHMG-CoAとの強固な結合を実現しました。
アトルバスタチン(リピトール)の売り上げは1兆円を超えるとのことですので、小さな国の国家予算並みです。





アトルバスタチンの三つのベンゼン環は錨のようにHMG還元酵素に根を生やして踏ん張っている様子が判ります。



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