ビタミンB1

2011年はオリザリン発見100周年ということで日本農芸化学会が様々な特別企画を計画しています。

オリザリン(ビタミンB1、チアミン)は最初のビタミン(摂取がしなければいけない必須栄養素)ですが、これが欠乏すると脚気を引き起こします。
脚気という病気は古代から世界中で問題となっていた病気で英語ではberiberiと言い、英和辞典を引いてみるともともとはスリランカの言葉(シンハラ語)と書かれています。
日本国内では、食生活が豊かになり白米食が主流になった江戸時代から問題になったそうです。


鈴木梅太郎はエミールフィッシャーのもとで留学して帰国後、盛岡高等農林学校に赴任しました。
「何故日本人の体格は西洋人と比べて貧弱なのか」という点についてから米食に疑問を持ち研究を開始したそうです。
米だけで飼育したニワトリは脚が効かなくなって倒れ、やがて死んでしまうという、しかし玄米を餌に加えると回復するという事実に遭遇し、玄米の成分米ヌカからオリザ二ン(ビタミンB1、チアミン)を発見しました。
梅太郎は当初、アベリ酸(a:対抗する、beri:beriberiが脚気の英語名)と命名、後にコメの学名Oryza satyvaからオリザニンと命名しました。
しかし、当時のオリザニンは不純物が多く含まれていて、最初は塩基性物質なのに、酸の命名がなされています。純粋なチアミンの単離は1926年、構造決定と合成は1936年です。


コメとニワトリの実験は鈴木梅太郎よりちょうど10年前にエイクマンによってもなされていました。エイクマンは原因は米に微生物が感染したためと結論しました。
エイクマンは近代微生物学のパイオニアの一人であるロベルトコッホのお弟子さんであったことがこの結論を導いたと言われています。
ほぼ同時期にカシミールフンクも同様の物質をビタミンと命名して報告しています。生命(vital)のアミン(amine)の意味です。
ホプキンスによって、摂取がしなければいけない必須栄養素、現代のビタミン学が確立されました。ホプキンスは牛乳からビタミンAを発見しています。

脚気と米ヌカとの関係を疑っていた研究者は国内にも複数いて、なかでも都築堪之助は米ヌカエキスをアンチべりべリンとして開発、効果は実証されていたようです。オリザニンの発見の半年ほど前だったそうです。ただ、そのころ国内でも脚気について微生物説など混乱していたそうです。

1904-1905年の日露戦争では、海軍では多くの脚気が原因の死者を出しました。当時、麦飯の導入も議論されたそうですが、反対したのが森林太郎(森鴎外)だったそうです。なんでも古来からの米食にケチをつけるのはけしからんといった主張だったそうです。(調理の方法、保存の方法などの問題もあったようですが。。。)

1929年のノーベル生理医学賞はビタミンの発見についての貢献でしたが、受賞したのはエイクマンとホプキンスで、鈴木梅太郎もカシミールフンクも漏れてしまいました。







ビタミンB1=チアミンは置換ピリミジン環と置換チアゾリン環とがメチレン鎖で結合した構造をしています。




チアミンの水酸基が二リン酸エステルに変換されて、多くの酵素の補酵素になります。
たとえば、ピルビン酸デヒドロゲナーゼの触媒本体はチアミンです。


チアミン二リン酸のチアゾール環の水素が酸性なため塩基によって引き抜かれます。生じたアニオンがピルビン酸のカルボニル炭素を攻撃、付加体を生じさせます。脱炭酸の後、1,2−ジチオラン構造を持つリポペプチドと、ジチオラン環を還元的に開裂させるように反応して、S-アセチルリポアミドを遊離、チアミン部分はアニオンに戻ります。S-アセチルリポアミドはCoAと置換してアセチルCoAを生成します。
ピルビン酸デヒドロゲナーゼはTCAサイクルの入口ですので、この反応を阻害してしまう、ビタミンB1欠損は重要な障害容易に想像できます






プロテインデータバンク2PDAではピルビン酸がチアミンに接近する様子が観察できます。





3D図を示しました。(MolFeatプラグインが必要です)
縮小するとホモダイーマーであることが判ります。

        

   (回転:左ボタンを押してドラッグ、拡大縮小:右ボタンを押してドラッグ)

残念ながらリポペプチドまで含むピルビン酸デヒドロゲナーゼの複合体はプロテインデータバンクで見つけることができませんでした。


ピルビン酸デカルボキシラーゼはピルビン酸デヒドロゲナーゼとよく似た反応経路でアセトアルデヒドを発生させます。






ピルビン酸の代わりに、1-ヒドロキシ-2-メチルプロピル基を持ったチアミン複合体がプロテインデータバンク2H9Fとして登録されていました。
反応する様子を想像することができます。またチアミンは二リン酸エステル部でマグネシウムイオンに配位して結合していることが判ります。
チアミンが補酵素として働くのに二リン酸エステルが必要な理由です。
この図では難しいのですが、マグネシウムイオンは、グルタミン酸、アスパラギンに配位して固定されています。






3D図を示しました。(MolFeatプラグインが必要です)
縮小するとホモダイーマーであることが判ります。

        

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