分子計算私感
学生時代(1980年後半)に当時北大の大沢映二先生がMM2をパソコンに移植して、PC98で分子の構造最適化が出来るようになった。恩師の白濱先生は「アルバイトはゼロだから是非やりなさい。」と薦めてくれた。
この頃は、初期配座を作るのもヒーヒーいっていた(といっても、画面の後ろから後輩に命令してやらせていただけで本人の苦労とは言いがたい。)。構造の最適化も、扱っていたトリテルペンエーテルの分子サイズでは一回のiterationに10分とかかかって、一配座を最適化するのに一晩以上かかっていた。ダイヘドラルドライバーなるものは付いていたが、その命令を書き込むのにも大変だった。従って、当時はパソコンを使う限り、問題となる二面角を変化させた数配座を計算するのが精一杯だったと記憶している。
それがどうだろう、現在使っているパソコン(ペンティアムV 2.8GHz)では同じ分子の分子力学を使った構造最適化は見ている間に完了してしまい、1000個ぐらいの配座解析でも、ちょっと席を離している間に終わってしまう。先日、三糖の配座解析をおこなった。さすがに配座数が多いため、明らかな部分の二面角回転をさせないようにする必要があったが、半経験分子軌道法で配座解析を行っても、一晩で計算が終了してしまった。三糖のHatree-Fock 6-31G*を用いた構造最適化でも一晩に数配座最適化できる。部屋を掃除していてでてきたMZ80Bの説明書をみていてあのパソコンはCPUが4MHz、メモリーが64Kバイト。当時は8ビットパソコンだったので現在のパソコンと比べたら10000分の一にも満たないのでしょう。即ち現在、一日かかる計算は当時のパソコンだと3年とか5年とかかかることになる。
ちなみにMZ80Bは私の最初のパソコン。夏休み中、汗だくになってマネキン工場でアルバイトして30万円貯めました。パソコンの値段はむしろ安くなっているのですね。
まだ年寄りじみたことは言いたくないが、計算速度を比較してみると「隔世の感」を感じてしまう。
計算は決して私の本業ではなく、半分お遊びでやっているため、いつまでたっても初心者から抜けられない。でも、やってみるのは簡単で、何しろ試薬代もかからないので、お金の無い私には都合のいい実験です。学生時代に計算のハードルを低くしてくれた白濱晴久先生には感謝です。