SMD Spartan Molecular Batabase その2

 お砂糖のエキソアノメリック効果を勉強していて、急にマルトースの立体配座について調べてみたくなった。
理由は、V. S. R. Raoらの"Conformation of Carbohydrates"によれば、X線結晶解析を基にした配座解析の例は複数あるが、グルコシド結合部分の配座は複数(論文の数だけ?)あった。どれが真実か、パソコンが明確にしてくれるかも、と考えてやってみた。同じことの繰り返しだが「パソコン計算はタダである。」
 計算はMMFFを用いて配座解析を行いデフォルトで保存された全ての安定100配座について、 3-21Gで再最適化を行った。MMFFの配座解析は千を超える配座を計算したが、さすがに分子力学法、バックグラウンドで別の「お仕事」しているうちに終了してしまった(30分もかからなかったと記憶している)。
ab initio計算は比較にならないほど時間がかかる。二糖を6-31G*で最適化した経験はあった。そのとき一晩で3配座ぐらい計算できたので、3-21Gと軽い計算であることを想定して、週末パソコンに計算させておけばOKかな。と思って金曜日にはじめたが、計算が終了したのは火曜日の夕方。はさすがにab initio計算は、3-21Gでも重たい。(100配座を4日で出来ることをすごいと思うべきか?)
計算の結果下に示した構造(左側)が最安定配座として求められた。
 得られた最安定配座はMMFFでの最安定配座より1.6kcal/molエネルギーが高い配座を初期配座にしたものであった。 MMFFで求めたグローバルミニマム配座は、より精密な分子軌道計算ではローカルミニマムになることもある。

 こんな計算をしていたら、あるとき、Spartanの画面下方にこんなウィンドウがあって、分子がクルクル回っていることに気が付いた。。

何だか解からないのでマニュアルを読んでみたら、Spartanの持っているデータベースを示しているらしいことが解かった。何度マニュアルを読んでも使い方が解からないので、Wavefunctionの内田さんに電話して聞いて、初めて使い方が解かった。
Spartanは常にハードディスク内のSMD (Spartan Molecular Database)にアクセスしていて、ヒットした構造がでるようになっている。なるほど構造を作ると画面の下にその化合物名がでていた。長い間これに気が付かなかった。そして化合物名の左側の▲ボタンを押すとこのウインドウが現れる仕組みになっていた。突然このウインドウが出てきたのは、たぶん気付かないでこのボタンを押してしまったらしい。
Spartan02のインストールには非常に時間がかかったが、これが原因とやっと理解した。
こうなってくると、自分の求めた配座が最安定配座であったかを調べたくなる。
そこでSMDの6-31Gで求めたという構造を、3-21Gで全ての原子を固定してエネルギーも、求めてみた。
結果を下に示す。
コンフォーメーションで新たに見出した配座 SMDが示す最安定配座
二面角(C4H-C4-O-C1') -2.5 deg -27.3 deg
二面角(C4-O-C1'-C1'H) -15.8 deg -18.6 deg
相対立体エネルギー -1.25 kcal/mol 0 kcal/mol
 驚いたことに、自分で求めた配座のほうが1.25kcal/mol安定であった。グリコシド結合周りの二面角を上に示したが、明らかに別の配座である。今回見つかった配座は再安定から4つ目の配座を初期配座としている。
マニュアルによればSMDはMMFFで求めた最安定配座を初期配座にして、構造の再最適化を行っているという。
確かにSMDの配座はMMFFでもとめた最安定配座に似ていた。
プロがやったのか、ロボットがやったのかは不明だが、データベースも完全ではないらしい。
 しかし、有用であることには変わりは無い。結局、データベースを活かすも殺すも使う人次第ということらしい。



戻る